最高裁判所第一小法廷 昭和40年(あ)1050号 判決 1966年3月03日
主文
本件上告を棄却する。
理由
弁護人大塚一男、同中田直人、同田口康雅の上告趣意第一点について。
所論は、主催者の許可申請義務違反のもとでなされた集会、集団行進または集団示威運動でも、それ自体はなんら実質的違法性を帯びるものでないから、これを違法として、その指導および煽動行為を処罰する昭和二五年東京都条例第四四号集会、集団行進及び集団示威運動に関する条例五条は、憲法三一条に違反するというのである。しかし、右条例の対象とする集団行動は、本来平穏に、秩序を重んじてなされるべき純粋なる表現の自由の行使の範囲を逸脱し、静ひつを乱し、暴力に発展する危険性のある物理的力を内包しているものであり、さればこそ、これに対しある程度の法的規制が必要とされる所以であって、決して、所論のように、主催者の許可申請義務違反は、主催者だけの責任であり、右義務違反のもとでなされた集会、集団行進または集団示威運動が、それ自体として何ら危険性はなく実質的違法性を欠くようなものでないこと、したがって所論違憲の主張の理由のないことは、当裁判所の判例の趣旨とするところである(昭和三五年(あ)第一一二号、同年七月二〇日大法廷判決、刑集一四巻九号一二四三頁)。それ故、所論は、採るを得ない。
同第二点について。
所論は違憲をいうが、実質は単なる法令違反、事実誤認の主張であって、刑訴法四〇五条の上告理由に当らない。
同第三点について。
所論は単なる法令違反の主張であって、同四〇五条の上告理由に当らない。(なお、本件当時の本件条例一条にいう「公安委員会」とは、単に管轄の公安委員会という意味であって、所論のように「東京都特別区公安委員会」という意味に解すべきでなく、右条例に所論のような改正があったとしても、刑の廃止と認められないことは、原判決判示のとおりである。昭和二九年(あ)第三七二九号、同三五年七月二〇日大法廷判決--刑集一四巻九号一二一五頁--は本件に適切でない。)
同第四点について。
所論のうち、判例違反をいう点は、引用の判例は本件に適切でなく、その余は量刑不当の主張であって、同四〇五条の上告理由に当らない。
被告人らの上告趣意一について。
所論のうち、昭和二五年東京都条例第四四号集会、集団行進及び集団示威運動に関する条例の本質および運用の違憲をいう点は、憲法のいかなる条規に違反するかを示さないから、上告理由として不適法であり、その余は、違憲をいう点もあるが、その実質は、単なる法令違反および事実誤認の主張であって、刑訴法四〇五条の上告理由に当らない。
同二について。
所論は、単なる法令違反、事実誤認の主張であって、同四〇五条の上告理由に当らない。
同三について。
所論は違憲をいう点もあるが、実質は単なる法令違反、事実誤認の主張であって、同四〇五条の上告理由に当らない。
同四について。
所論のうち、憲法一四条違反をいう点は、所論のような場合が同条違反といえないことは当裁判所の判例とするところであり(昭和二三年(れ)第四三五号、同年一〇月六日大法廷判決、刑集二巻一一号一二七五頁)、憲法三七条一項違反をいう点は、仮に裁判が迅速を欠いたからといって、ただそれだけでは原判決に影響なく、これを破棄する理由とならないことは当裁判所の判例とするところであって(昭和二三年(れ)第一〇七一号同年一二月二二日大法廷判決、刑集二巻一四号一八五三頁)、違憲の主張はいずれも理由がない。その余の所論は、単なる法令違反、量刑不当の主張で、刑訴法四〇五条の上告理由に当らない。
記録を調べても、所論の点につき、同四一一条を適用すべきものとは認められない。
よって同四〇八条により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。 (裁判長裁判官 入江俊郎 裁判官 長部謹吾 裁判官 松田二郎)